目の奥の写真で年齢がわかる?約7万人の網膜写真研究から考える「体の年齢」の読み方

「同じ年齢なのに、あの人は若く見える」。こういう話はよくしますが、見た目ではなく、体の中の写真から年齢を当てようとする研究があります。使うのは「眼底写真」、つまり目の奥の網膜の写真です。

網膜の写真から年齢がどのくらい分かるのか。そして、その「写真から見た年齢」と実際の年齢のずれに、どんな意味があるのか。英国の約7万人のデータを使った研究が、Nature Communicationsに掲載されました。

目の奥の写真で、年齢はどこまで当たるのか

研究では、RETFoundというAIのモデルを調整(fine-tuning)して、眼底写真から暦年齢、つまり実際の年齢を予測させました。

結果、予測した年齢と実際の年齢の差は、平均で2.85年(MAEという誤差の指標)でした。写真から、平均すると3年以内のずれで年齢を当てていた、ということになります。

研究者が注目したのは、このずれのほうです。AIが予測した年齢から実際の年齢を引いた差を「retinal age gap(網膜年齢ギャップ)」と呼び、このずれが体のどんな状態と関係しているかを調べています。

約7万人の網膜写真を使った研究

  • 対象:UK Biobank(英国の大規模な健康データベース)の71,343人
  • 使ったデータ:カラー眼底写真
  • 方法:深層学習のモデルで年齢を予測し、予測年齢と実年齢の差と、さまざまな健康指標との関連を解析。遺伝子の解析(ゲノムワイド解析)も実施
  • 研究の種類:観察データの解析。何かを試して比べる介入研究ではありません
  • 掲載:Nature Communications(査読済み・早期公開版)
  • 資金:Swiss National Science Foundation など。著者は競合利益なしとしています

網膜年齢のずれは、何と関係していたか

retinal age gapは、次のようなものと関連していたと報告されています。

  • 心代謝の指標
  • 炎症
  • 認知機能
  • 全死亡
  • 認知症
  • がん
  • 将来の心血管疾患

また、男女で関連のパターンに違いがあったことも報告されています。論文のタイトルにも「sex-specific(性別ごとの)」という言葉が入っていて、ここが研究の特徴の一つです。

なお、それぞれの関連の詳しい統計値(p値など)は、公開されている要旨では確認できませんでした。

「網膜年齢が若い=体が若い」とは言えない理由

ここは分けて考える必要があります。

「網膜年齢が若い=体が若い」とは言えない理由

まず、年齢をよく当てられることと、老化の原因を測っていることは別です。AIは写真の特徴から年齢を推定していますが、それが老化そのものを映しているとまでは、この研究では言えません。

次に、病気や死亡との「関連」は、因果関係ではありません。網膜年齢のずれが大きい人に、ある病気が多かった、という観察です。ずれが病気の原因になっている、という意味ではありません。

そして、retinal age gapを下げれば病気や死亡が減るのかは、分かっていません。臨床の現場で、一人ひとりの「生物学的年齢」をこの方法で正確に決められるかも、まだ確立していません。著者もこの指標を「生物学的に意味のある特徴」と位置づけていますが、治療の効果や因果関係までは主張していません。

ほかの集団でも同じ結果になるか、同じ人を時間を追って見たときにどう変わるか、何かをしてずれが変わったときに病気の起こり方も変わるのか。こうした点は、これから確かめられる段階です。

「体内年齢」のような数字を見たときに、生活でどう受け止めるか

「あなたの体の年齢は○歳」のような数字を見かけたとき、この研究はその読み方を考える材料になると思います。

研究から言えるのは、目の奥の写真に年齢の情報がかなり含まれていて、そのずれが体のさまざまな状態と関連していた、というところまでです。「眼底年齢が本当の体の年齢」「若返りを測れる」「数値を良くすれば寿命が延びる」といった話ではありません。

次に「体の年齢」のような数字を見る機会があったら、まず2つだけ確かめてみてください。その数字は何を予測したものなのか。そして、その数字を下げると病気が減ることまで確かめられているのか。この2つが分かるだけで、数字に振り回されにくくなります。

出典:Deep learning aging marker from retinal images unveils sex-specific clinical and genetic signatures(Nature Communications)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の効果・効能を保証するものではありません。感じ方には個人差があります。

著者:古川鉄兵(アーシング研究家/riraku-life 代表)