
雨音に近い音を寝ている間に流すと、睡眠に良いのではないか。そんな記事を見かけて、気になった方もいるかもしれません。先に整理すると、MITの実験は「音を流しただけ」ではありません。眠っている人の脳波を見ながら、ごく短い音をぴったりのタイミングで鳴らした研究です。
この記事は、MITの発表記事と、米国の新聞Boston Globeの報道の両方に基づいています。論文本体は確認できていません。
寝ている間に50ミリ秒の音を鳴らした実験です
MITの研究チームが、ノンREM睡眠中に50ミリ秒のピンクノイズを鳴らす実験を行いました。研究はScience Translational Medicineに掲載されたと、MITの記事に書かれています。
- ピンクノイズ:可聴域のすべての周波数を含み、低い音が強い音です。MITは雨音に近いと説明しています。
- ノンREM睡眠:眠りの段階のうち、REM睡眠(眼球が速く動く段階)以外のものです。
- 徐波:ノンREM睡眠の深い段階で現れる、ゆっくりとした大きな脳波です。
- 脳脊髄液(CSF):脳と脊髄のまわりを流れている液体です。
参加者は健康な成人14名です。音は、徐波のピークに合わせて鳴らされました。起こさない音量だったとされています。
測定には2つの方法を同時に使っています。EEG(頭皮につけた電極で脳の電気活動を記録する方法)で徐波を捉え、fMRI(MRIで脳の血流の変化などを測る方法)で脳脊髄液の流れを測りました。fMRIがEEGに与える干渉を100ミリ秒未満で取り除く信号処理と、徐波のピークを予測して音のタイミングを決めるアルゴリズムは、研究チームが開発したものです。
分かったのは、2つの波が大きくなったことです
音を鳴らすと、徐波の振幅と、それに同期する脳脊髄液の波の振幅が、ともに大きくなりました。MITの記事では、fMRIのデータは、徐波が血管を縮めたり広げたりし、それがポンプのように脳脊髄液を脳から押し出していることを示唆する、と説明されています。
p値や効果量などの数値は、MITの記事に載っていないため、書きません。
まだ言えないことは、ここにまとめます
- 測ったこと:徐波の振幅と、脳脊髄液の波の振幅。
- 測っていないこと:老廃物やアミロイドβの排出量。MITの記事は、脳脊髄液の流れが老廃物の排出に関わるという背景を述べていますが、排出量そのものを測ったとは書かれていません。
- 未検証:認知症の予防、睡眠の質や記憶の改善。
- 対象:健康な成人14名だけです。不眠症やアルツハイマー病などの患者さんでの研究は、これから行われる予定とされています。
- 確認できていないこと:論文本体の統計の詳細です。MITの記事には、筆頭著者が家庭用の装置の開発を目指す会社を起こしたとも書かれています。
家で音を流すのとは、条件が違います
実験は次の3つがそろった条件で行われました。
- 睡眠中の脳波を見ながら鳴らす
- 徐波のピークに合わせて鳴らす
- 50ミリ秒だけ鳴らす(しかもMRIの中での測定です)
Boston Globeの報道では、研究者が、タイミングが外れた音では同じ効果が出なかったことや、連続したピンクノイズが同じように働く証拠はないことを述べたと報じています。同紙は、家庭で再現する理由はないという趣旨の発言も伝えています。実験と、アプリや機器で寝室に音を流すこととは別のもので、この研究は音のアプリや機器を買う根拠にはなりません。
読者の方への提案:夜の過ごし方を記録してみる
ここからは、研究の結果ではなく、読者の方への提案です。
- 睡眠を記録する:1〜2週間、就寝時刻、起床時刻、夜中に目が覚めた回数、日中の眠気を、毎朝メモに残してみてください。自分の睡眠を知る材料になります。
- 記録を相談に使う:睡眠の悩みが続くときや、いびき、日中の強い眠気があるときは、その記録を持って医療機関や睡眠外来に相談してください。記録を見せると、状況を伝えやすくなります。
- 寝室を整える:Boston Globeでは、ハーバード大学の睡眠医学の専門家Rebecca Robbins氏が、静かで暗く涼しい環境という一般的な整え方を挙げています。音のアプリや機器を試すより先に、まずここを見直せます。
なお、この実験で使われたのは音で、電気や磁場、アーシングとは関係がありません。アーシングの話とは別のものとして読んでください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の効果・効能を保証するものではありません。感じ方には個人差があります。
