4時間半しか眠れない夜、夕方30分の運動で翌日の記憶はどうなる?88人の実験から分かったこと

次の日に覚えておきたいことがあるのに、今夜はどうしても4時間半くらいしか眠れそうにない。そんな日の夕方に、30分ほど体を動かしておくと、何か違いはあるのでしょうか。

この疑問に近い条件を、実験室で確かめた研究があります。若い健康な大人88人を4つのグループに分けた実験で、睡眠を4.5時間に削った人たちの中では、夕方に30分の運動をしたグループのほうが、運動をしなかったグループより翌日の記憶テストの成績が良かった、という結果でした。

ただ、これは「運動すれば寝不足は帳消し」という話ではありません。何を測って、どこまで言えるのかを順番に見ていきます。

4.5時間睡眠と8.5時間睡眠、運動あり・なしの4グループで比べた実験

対象は健康な若年成人88人です。女性が52%、平均年齢は24.0歳(±3.8歳)でした。参加者は次の4つのグループに分けられています。

  • 通常の睡眠(8.5時間)・運動なし
  • 睡眠制限(4.5時間)・運動なし
  • 通常の睡眠(8.5時間)・運動あり
  • 睡眠制限(4.5時間)・運動あり

運動ありのグループは、19時に30分間、中強度の自転車こぎをしました。強さは、その人の最大酸素摂取量(体が取り込める酸素の量の上限)の55〜60%に合わせてあります。運動なしのグループは、同じ時間を座って安静に過ごしました。

そのあと22時に、80組の「顔と名前」の組み合わせを覚えます。夜は睡眠ポリグラフ検査(脳波などを一晩記録して、眠りの段階を調べる検査)を付けたまま眠り、翌日、前の晩に覚えた組み合わせをどれだけ思い出せるかを測りました。

寝不足の夜でも、運動したグループは翌日の記憶テストが良かった

結果は次のとおりです。

  • 翌日の記憶テストでは、「運動したかどうか」と「どれだけ眠ったか」の組み合わせによって成績が変わる、という統計的に意味のある関係が見られました(p=0.033)。
  • 4.5時間しか眠らなかった人の中では、夕方に運動したグループのほうが、運動しなかったグループより成績が良好でした(p=0.028)。
  • 4.5時間睡眠で運動したグループと、8.5時間眠ったグループとの間には、統計的にはっきりした差は見られませんでした。

3つ目は「8.5時間眠ったのと同じになった」という意味ではありません。差が確認できなかった、というところまでです。

もう一つ、研究チームは眠りの中身も見ています。統計的な分析では、徐波睡眠(脳波がゆっくりした波になる、深い眠りの段階)の割合が、運動と記憶の成績との関係を媒介していました。運動したことと記憶の成績がよかったことの間を、深い眠りの割合がつないでいるように見える、という結果です。

この研究で、まだ言えないこと

ここは結果と同じくらい大事なところなので、分けて書いておきます。

  • 1回の運動の、翌日までの結果です。毎日寝不足の人が毎日運動したら同じことが続くのかは、分かっていません。
  • 対象は健康な若い大人です。年齢の違う人や、病気のある人でも同じ結果になるかは不明です。
  • 測ったのは「前の晩に覚えた顔と名前を、翌日どれだけ思い出せるか」です。翌日の集中力や仕事の出来、体調全般を測った研究ではありません。
  • 深い眠りが原因だとまでは決まっていません。統計的に関係をつないでいたことと、「深い眠りが増えたから記憶がよくなった」と体の仕組みとして確定することは別です。
  • 寝不足の害を防げる、とは言えません。「睡眠不足は運動すれば帳消しになる」「運動で睡眠不足の健康リスクを防げる」とは、この研究からは言えません。

また、この論文は学術誌に受理された段階の、校正前の原稿として公開されています。研究の資金の出どころや利益相反、著者自身が挙げている限界は、公開されている要旨からは確認できませんでした。

寝不足になりそうな日に、この研究をどう使うか

まず前提として、この研究で比べる基準になっていたのは、8.5時間眠ったグループです。運動で寝不足を埋め合わせる話ではないので、眠る時間を確保できるなら、そちらが先です。

そのうえで、どうしても睡眠が短くなる日がある、という人にとっては、選択肢の一つとして考える材料になると思います。研究の条件をまとめると、こうでした。

  • 運動したのは寝る直前ではなく、19時の夕方
  • 長さは30分、強さは中強度(実験室で一人ひとりに合わせて調整したもの)
  • 覚えたのはその夜の22時、確かめたのは翌日

つまり、この研究が見たのは「夕方に体を動かして、その夜に覚えたことを、短い睡眠のあとどれだけ思い出せるか」です。試験前日や、覚えることの多い仕事の前の晩など、場面が近い人ほど参考にしやすいはずです。

次に寝不足になりそうな日が分かっていたら、まず眠る時間を少しでも確保できないかを考え、そのうえで、19時ごろに30分体を動かす時間が取れるかを見てみる。この研究から持ち帰れるのは、そのくらいの順番だと思います。結果は一人ひとり違う可能性があるので、「これで大丈夫」と思って睡眠を削る理由にはしないでください。

出典:睡眠制限と夕方の中強度運動、翌日の記憶を調べた研究論文(校正前の受理原稿)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の効果・効能を保証するものではありません。感じ方には個人差があります。

著者:古川鉄兵(アーシング研究家/riraku-life 代表)